リース・ヴィフィル「Cyberspace – A Lawless Wild West or Orderly Chaos?」
以下にメモを書くけど、結論というか一番大事なのは「現代の我々の前には2つの選択肢がある。1つはサイバー空間をこのまま無法地帯で放置すること、もう1つは完全ではないこと、弊害があることを受け入れた上でサイバー空間を統治する法をつくることである。」という言葉だと思いました。
前置き
なぜ法律が重要か?
- そもそも法律とは社会契約を正当化するものである
- 法律の中でも、国際法は、国際社会における国家の望ましい振る舞いを決める
国際法の価値
- 国際社会の予測可能性をあげる。予測可能性は安定性を有む。
- 国際法は、法の執行の可能性を高める。ただし国際法が執行されるのは、国家がその法が執行されることを望む場合のみであり、執行可能性は大いに不透明さが残る
現代の我々の前には2つの選択肢がある。1つはサイバー空間をこのまま無法地帯で放置すること、もう1つは完全ではないこと、弊害があることを受け入れた上でサイバー空間を統治する法をつくることである。
条約
条約は基本的には「良いもの」である
- 1945に国連憲章がたちあがった。その目的は世界大戦を防ぐため
- 2015年のパリ合意は、(失敗という声が多いが)地球温暖化を食い止めるための条約
- ICCPR(市民的及び政治的権利に関する国際規約)は奴隷、差別、死刑、拷問などをへらすための条約
- 変わり種として、日豪間では絶滅危惧の鳥を保護する日豪渡り鳥保護協定がある
サイバー空間を統治する条約
既存のサイバー空間をめぐる条約と呼べるものは少ないが存在する。
- ブダペストコンベンション
- SCOの合意(Code of Conduct)
- 2013 EU Cyber Strategyは「New International Legal instrumentsを求めない」という立場を明らかにした
ブレグジットや米国の国際条約への冷淡さを見ても、2019年はグローバリズムが弱体しているタイミングであり、国際条約の議論をするのには厳しいタイミング。
新たな条約をつくる道
条約はまず最初に言葉の定義と、その条約のスコープを決めるところから始まる。Cyber securityという言葉の定義も定まっていない。一般に民主主義国はインフラへの攻撃を防ごうと、中露は情報面での攻撃を防ごうとしており、そのため民主主義国家はCyber Security対策をしようとし、中露はInformation Secuirty対策をしようとする。このような状況において、新たな条約で国際社会が合意する可能性は低いと言わざるを得ない。
次善の策は?
- 新たな条約が難しいとして、次善の策は、現在ある国連憲章などをサイバー空間に拡大することである。
- 国連憲章の2条4項において武力行使はUnlawfulである。サイバー作戦は武力行使の範疇と捉えれば、これを補足し、抑止できる。
- どのようなサイバー作戦が武力行使とみなされるのか、専門家の検討が続いている。Tallinnマニュアルはこのような状況に指針を示すために作られた。(注: 講演者自身も筆頭編集者として参加している。)
日本の役割、チャンス
- 日本政府は繰り返し、法の支配の推進を主張している。しかし、どの法がサイバー空間を支配するのかなどスタンスが不明瞭である。
- 日本は国連の会合UNGGEとOEWGの両方に参加している。
- 日本に求められるのは、国際法がサイバー空間にどのように適用されるかについて、日本の考えを明らかにすることである。これについてアメリカ、イギリス、オランダは文書を公開している。当然ながら、どの文書も適法/違法のしきい値を明らかにしていない。それをしてしまうと自らの危険を高めるからである。
日本の技術コミュニティはどうすべきか
サイバー空間独立宣言でジョン・ペリー・バーロウはサイバー空間は国家などの規制を受けないとした。2019年現在、社会がサイバーへの依存を高めるており、サイバーセキュリティのリスクも上がり続けている。法律はそのリスクを低減するための手段である。